ここでは、老人ホームを設置したいが社会福祉法人を設立するには条件が揃わないという方のために、社会福祉法人を作らずに有料老人ホームを設置する場合を想定して解説を行っています。ぜひ参考にしてください。
そもそも、有料老人ホームとは、老人福祉法第29条に規定された高齢者向けの生活施設で、常時1人以上の老人を入所させて、生活サービスを提供することを目的とした施設で老人福祉法上の老人福祉施設でないものをいいます。
以前は、老人の入居者数が10人以上であることと、食事の提供をしていることが有料老人ホームの基準となっていましたが2006年4月の法改正により、その基準は撤廃されました。1名以上の入居者がいて、なんらかの介護サービスを提供していれば、有料老人ホームに該当します。なお、ここでいう老人とは65歳以上の高齢者をいいます。
有料老人ホームを設置するには都道府県知事へ事前に届け出なければなりません。有料老人ホームは、民間企業が経営しているケースが多く、介護サービスの内容に応じて、「介護付き」「住宅型」「健康型」の3つのタイプに分けられます。なかでも、「介護付き」有料老人ホームを経営する場合は、特定施設入居者生活介護の指定を受けなければならないため、他のタイプの有料老人ホームに比べて厳しい要件が課せられています。
介護付 有料老人ホーム |
一般型特定施設 入居者生活介護 |
介護や食事等のサービスが付いた有料老人ホーム。介護保険で定められた基準を満たし、特定施設入居者生活介護に指定された有料老人ホームをいう。 |
外部サービス 利用型特定施設 入居者生活介護 |
介護等のサービスが付いた有料老人ホームだが、介護サービスは委託先の介護サービス事業者が提供する。(=老人ホーム経営事業者と介護サービス事業者が別) 平成18年の介護保険法改正時に新たに設けられた仕組みで、住宅型有料老人ホームのメリット(1対1で介護サービスを提供)と一般型(特定施設入居者生活介護)介護付有料老人ホームのメリット(ケアサービス計画にスタッフが関わる)を合わせた仕組み。 スタッフの雇用負担などが運営事業者にとって緩和されるが、運営事業者とサービススタッフが別会社であることによる意思疎通の問題がでる可能性がある。 |
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住宅型 有料老人ホーム |
施設では介護サービスが提供されないため、介護が必要になった場合、入居者自身の選択により訪問介護など外部の在宅介護サービスを利用する。入居者にとっては、介護付有料老人ホームのように施設が提供する一律の介護サービスではなく、介護の種類やサービス提供先の選択肢が多いというメリットがある反面、在宅で介護サービスを受けているのと変わらないため、要介護度が重度になった場合、特定施設入居者生活介護より介護保険費用がかかってしまうというデメリットがある。 | |
健康型 有料老人ホーム |
自立した高齢者を対象にした有料老人ホームで、食事等のサービスを提供する。他のタイプの有料老人ホームと比較して費用が安い場合が多いが、介護が必要となった場合は、契約を解除して退去しなければならない。 |
1.有料老人ホーム設置の要件
(1)設置主体
- 事業を確実に遂行できる経営基盤が整っており、社会的信用の得られる経営主体であること。
- 個人経営でないこと。少数の個人株主等による独断専行的な経営体制でないこと。
- 役員の中に、有料老人ホームの運営について、知識、経験等のある者が1人以上いること。
(2)立地条件
- 住宅地から遠距離でなく、不便な地域でないこと。
- その土地及び建物について、有料老人ホーム事業以外の目的による抵当権など、有料老人ホームとしての利用を制限するおそれのある権利が存在しないことが、登記簿謄本や現地調査等により確認できること。
- 借地・借家により設置する場合は、長期安定契約等の諸条件を満たすこと。
(3)職員の配置
- 入居者の数及び提供するサービス内容に応じ、その呼称に係わらず、下記の職員を配置すること。
施設長 事務員 生活相談員 看護職員
(看護師又は准看護士)栄養士 調理員 機能訓練指導員 - 入居者の実態に即し、夜間の介護や、緊急時に対応できる数の職員を配置すること。
- 介護サービスを提供する有料老人ホームの場合は、(1)(2)のほか、下記の体制を整えること。
- 介護職員及び看護職員(=要介護者等を直接処遇する職員のこと)について、介護サービスの安定的な提供に支障がない体制であること。
- 看護師は入居者の健康管理に必要な数を配置すること。(ただし、看護師の確保が困難な場合は、准看護士を充てることができる)
- 介護職員については、1人以上の介護福祉士、訪問介護員等要請研修1級又は2級課程を修了した者を配置すること。
- 施設長など、介護サービスの責任者は、高齢者の介護について知識、経験を有する者であること。
(4)設備
有料老人ホームは次の設備を設けること。また、廊下の有効幅は1.8m以上とし、車椅子使用者同士がすれ違うスペースを設けた場合は、1.4m以上とすること。
- 専用居室
・原則として、個室であること
・入居者1人当たりの床面積は13m2以上
・地階に設けないこと - 一時介護室(入居者が一時的に介護を受けるための部屋)
・専用居室の基準を満たすこと
・居室において介護が可能な場合は設置しなくてもよい - 食堂
- 浴室
・要介護者が入浴するのに適したものであること - 便所
・居室のある階ごとに設置し、緊急通報装置を備えていること - 洗面設備
- 医務室(又は、健康管理室)
- 談話室(又は、応接室)
- 看護・介護職員室
- 機能訓練室
・他に機能訓練を行うために適当な広さの場所が確保できる場合は設置しなくてよい - 事務室
- 宿直室
- 洗濯室
- 汚物処理室
- エレベーター(2階以上の場合)
- ナースコール等緊急通報装置
- スプリンクラー設備
(5)その他
- 医療機関との連携について計画されていること。
- 定款の「目的」に「有料老人ホーム運営」「特定施設入居者生活介護」が記載されていること。
2.特定施設入居者生活介護の指定について
(1)特定施設入居者生活介護の指定とは
介護付き有料老人ホームを運営するには、都道府県知事から「特定施設入居者生活介護」の事業者指定を受けていなければなりません。つまり、特定施設入居者生活介護指定を受けていない事業者は、広告やパンフレット等において「介護付き」、「ケア付き」等の表示を行うことができません。
また、この「特定施設入居者生活介護」の事業者指定を受けていない場合、介護保険の給付対象となりません。
(2)特定施設入居者生活介護の指定基準
特定施設入居者生活介護の事業者は、特定施設サービス計画に基づき、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話、機能訓練及び療養上の世話を行います。入居者が要介護状態となった場合に、特定施設入居者生活介護を提供できる体制が整っていなければなりません。とくに、人員に関しては、厳しい基準が定められています。
<人員に関する基準>
- 生活相談員
- 介護保険利用者100人あたり1人以上。
- 生活相談員のうち1人以上は常勤者であること。
- 看護職員と介護職員
- 看護職員の配置人数
- 利用者数が50人以下の場合
- 常勤換算で1人以上配置
- 利用者数が51人以上の場合
- 常勤換算で、利用者50人あたり1人以上配置。
- 介護職員の配置人数
- 利用者数に係わらず
- 常時1人以上配置(但し、利用者全員が要支援者である場合の当直時間帯を除く)。
- 要介護者・要支援者に対する看護職員又は介護職員の人員割合
- 要介護者
- 要介護の利用者3人あたり1人以上の職員を配置
- 要支援者
- 要支援の利用者10人あたり1人以上の職員を配置
- 看護職員と介護職員共に1人以上は常勤者であること。
- 看護職員の配置人数
- 機能訓練指導員
- 機能訓練指導員を1人以上。
※機能訓練指導員とは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、准看護師、柔道整復師、按摩マッサージ指圧師を指します。
※機能訓練指導員は、他の職務との兼務が認められています。
- 機能訓練指導員を1人以上。
- 計画作成担当者(介護支援専門員[ケアマネージャー])
- 介護保険利用者100人あたり1人以上。
- 常勤管理者
- 常勤管理者を1人以上。
※管理上の支障が無ければ一定の職務との兼務が認められています
- 常勤管理者を1人以上。
有料老人ホームの設立届出手順
1.市区町村及び都道府県との事前協議
事前協議のうえ、事前相談計画書類を当事務所で作成し提出します。
2.建築確認申請
事前相談の結果、都道府県より設立許可がでたら、建築確認申請を行う。
3.有料老人ホーム設置届出
建築確認後速やかに都道府県へ設立の届出をする
4.工事開始及び入居募集開始
都道府県への届出後に入居募集を行う
5.特定施設入居者生活介護指定申請 ※介護付有料老人ホームの場合のみ
介護付有料老人ホームの場合は特定施設入居者生活介護の指定を受けなければならない。(申請先は事業所の所在する都道府県。事業開始予定日前々月末までに申請する)
6.開設
特定施設指定後、開設。※住宅型・介護型老人ホームの場合は4の後開設。
<事前相談計画書類>
- 事前相談計画書
- 付表10※今回申請するサービスについてなどを記入する
- 事業計画書(収支計画・資金計画を含む)
- 市場調査書
- 運営法人の定款、登記事項証明書、役員名簿、役員の略歴書
- 直近の決算報告書
- 土地登記事項証明書、建物登記事項証明書※、建物賃貸借契約書※
(※については既存改修型など該当ある場合。予約契約書を含む) - 平面図、立面図
- 面積表
- 設備概要
- 重要事項説明書
- 自己チェック票